「 歌の素、歌のエネルギーの創り方」1.歌の素って何?

“元気な声を出すために、声を出して元気になるために”

発声法の基本とはなんでしょうか?
腹式呼吸でいい声を出すことでしょうか?
できるだけ高い声を出せるようにすることでしょうか?
またヴィブラートをきかせたいい声を出すことでしょうか?
基本はやっぱりどれぐらい楽に息を吸って、吐いて、この呼気を歌声に変えていくかというのが発声法の真髄ですね。
今回は身体的、心理的の両面からのアプローチで声を出すエネルギーの創り方をお勉強いたします。

今回テーマは、『歌の素』、『歌のエネルギー』の作り方についてです。
では、『歌の素』っていったい、なんでしょうか?
ささっと書いてお見せできればいいいのですが、たとえばどんなふうにして声を歌に変えていったらいいのかとか、歌うにしてもただ漫然と声をだして歌うのではなく、人に伝えることを意識してしっかり声を出すにはどうしたらいいかとか、今日はそういうことについてお話しさせてもらおうと思います。

まず声とは何ぞや?
といったときに、いまわたしとあなたの間にあるものはなんでしょうか。空気! そうですね。
わたしがいまここである程度の声を出して空気を揺らしたらそれが音の振動になってそちらの耳まで伝わるわけですよね?
ですから、この空気の振動ってうのを上手に作っていかなきゃだめなんですね。

では空気の振動をどこで作っているのか。
いろんなところで作れます。
それこそ声でなくたっていい。
空気の振動だけだったら、こうやって手をパン!とやるだけでも空気の振動です。足をドンドン! と、こういうのもぜんぶ空気の振動です。
『音エネルギー』っていうのは、空気を振動させるのが得意なエネルギーですから、それでまわりにどんどん伝わっていきます。

だけれども音、声のすごく複雑なところは何かっていうと、例えばじゃあ「ふーん・・・」って音を出そうとしたら、その「ふーん・・・」っていう音のおなじ高さで「いえあおう」「あいうえお」、おんなじ高さの音ではあるんですけど、母音とか子音とかいろんな音の表情っていうのがのっかって、それが言葉になってみなさんのお耳のところまで届くわけです。

だから、あの人の声は高いとか低いとかいうわけですけれども意外と高くキンキン聞こえてる人の声でも、実は低い方の音も出てたり、逆に低く聞こえる声の人でも高い声も出ていたりとか、いろんなことがあります。
そんことを「声の幅」なんていいますね。

たとえば「おはようございます」というこの周波数でいま音をちよっと作っていきますけれども、すごーくせまーい音でいくと「おはようございます」とこんな感じ。薄い音っていうんですね、こういうの。でもこれを「おはようございます」とこんな感じで言ってもこれね、基本の周波数はおんなじなんですよ。
「ミーー」って音があるとしますね。それを「ミーイーエーー」っていうふうに響きを変えるだけで音の性質がすごく変わるんですけれども、基本の周波数ってのが一緒なんですね。
どういうことかっていうと、、、音叉を持ってきて説明しますね。

音叉というのは、一つの音しか出さない楽器というか、チューニングフォークなんていいますけれど、音をとるもんです。
ひとつの音しかでません。
ところが人間の声っていうのは、音の響かせ方で「イーー」って言っていても、口を大きく開かせたり口角を上げたりすることで「イーーイエーー」という感じにその周波数の倍の音倍の音倍の音がのっかってくんですね。
こういう倍の音がたくさんのっかって5倍めくらいになるとすごくいい音に聞こえます。だからクラシックのオペラなんかでも、「あの人はすごく声がいいね」と言われている人っていうのはその基本の周波数の倍の音がたくさん出ている人だと思っていただいていいです。
そういうようなふうにして声を作っていく、というのが、これが今日いちばん最初に『歌の素』、いい声を作るということになります。

じゃあ、ここでね、ただ単に自分から声を出していればいいのかっていったら、そうではないんですね。
自分の声を出したら、その音をかならず聴いてほしいんです。
「おはようございます」と、いま言いました。
こういうザラザラしたダミ声を出しているとそれは自分が出している声であっても自分の耳にも到達してますから、声もザラザラしてきます。
お耳が先天的に若干不自由な方がいらっしゃいます。
音にも低い音から高い音までいろんな音がありますけれども、このひとつの耳で聴いているだけではないんですね。
お耳ってね、こう耳があって、ここに鼓膜がありまして、ここに骨があって、その中に内耳ってのがありましてね、それで、こうやってきた音、これ空気の振動です、空気が揺れてますから鼓膜も揺れます、その揺れが骨をふるわせて、この内耳の中に入ってきたときに音を感じるんですけれども、この内耳、これ蝸牛っていいます。カタツムリみたいな形をしてるから。

この中に、いまお見せしました音叉、いろんな音叉がダーッと並んでると思ってください。ね、そうすると、低い音がやってきたときには低い音叉の細胞がふるえて、高い音がやってきたときには高い音の音叉の細胞がふるえるんです。どこの音叉がふるえたか、っていうのをぜんぶ計算してギュンと電気的な信号に変えて脳まで持っていって、それで人は「ああ、いまこんな音が聞こえてる」ってことがわかるんです。それで、このある部分がやられてる人というのは、いくら「おはようございます」って外から音を聞いたとしても、例えば低いところがやられていたら、高い声でしか聞こえないんです。
小鳥が会話するように高い音だけで会話する人を聞いたことがないでしょうか。
お耳が不自由な人のお教室なんかに行くと、そういう方がいるのがわかります。また逆に、高い方の音、これがだめになってますと、低いほうの音だけが生きてきますから、「おはようございます」っていっても、低い音だけで聞こえるので、その人は口や喉や、肺や胸には何も問題がなくても、その人が誰かに「おはようございます」と言おうとすると、やっぱり自分がいつも聞いている通りの言い方になってしまうんです。
なぜか。
まわりにある「おはようございます」はふつうの「おはようございます」なのだけれど、その人の耳のある部分がつぶれていたらけっきょく脳にたどりつくのは低い音だけでできた「おはようございます」だから、その人にとっての「おはようございます」の認識はそういうものになってしまうんですね。
ですから残念なことに、高いほうの音はわかるけれども低い方の音はわからない、また逆に低い音のほうはわかるけれども高い音はわからない人にとっては、その人の音の世界はふつうの人より狭くなるんです。
ですので、じゃあどうしたらいいかっていうと、低い方も高い方も聞こえる人は、できるだけそのすべての音を十分に自分の中に取り込んで、その音のよさ、もしくはその場に適した音、あるいは適さない音というのをたくさん経験する必要があると思います。