「 歌の素、歌のエネルギーの創り方」2.空気となじむ

この場に適切、不適切な音というのをわたしたちはたくさん経験
しなければならないし、昔の話で言えば夏の金魚売の声、風鈴売
りの声など、物売りの声が聞こえてきて「ああ、なんかいい感じ
だなぁ・・・」と感じたら、そのときのその感じをしっかり覚え
ておいていただきたいですね。
これぞ経験のなせる業ですけれども。

でも今日び、そんな風情のある声を聞くこともなくなったという
ことでしたら、さあ、どうしたらいいでしょう。
だとしたらこんどは自分がいろいろなシーンで出した声をしっか
り覚えておく、ってことです。
イライラしたり腹の立つことがあったとしても、そういうときで
も自分の声はいつも聞く、ってこと。
そして、そんなときにうっかり出してしまいがちなイライラした
嫌な声も、ふだんの自分のいいときの適切な声を覚えていたら、
一歩冷静になって、適切ないい声が出せる。いい声が出せたら、
そのイライラした状況も変わる(変える)かもしれないってこと
ですね。
そしたら、コミュニケーションもよくなる。

いいかげんなどうでもいいような声で挨拶されるより気持ちのい
い声で挨拶されるほうが気持ちようない? ね? そうすると、
コミュニケーション、すなわち相手の人とのエネルギーが回りだ
すんです。
だから自分の出した声、自分の出した音はしっかり覚えておきま
しょうね、っていうこと。そういうフィードバックは非常に役に
立ちます。

声をだすとき、全身を使って声を出すのがいいので、リズムを
つけてやるってのがあります。
小さい子どもがよくやります。
言葉に節をつけて「遊びましょ、○○ちゃん♪」とか。
そういうとき、言葉にも遊び歌にもリズムがのるわけですよ。
そしてリズムがのると楽しくなるんですね。
たとえば「夕焼け小焼けの赤とんぼ」って歌がありますが、こ
れを歌うとき、メロディックに歌わないで、細かく分断して
「ゆ・う・や・あ・あ・あ・け・え・こ・お・や・あ・け・え
え・の」と、こういうふうにハッハッハッ八ツという感じで声
を出すことで、音の並びをリズムで練習するというやりかたも
あります。
そうすると吸う息・吐く息の練習ができるんですね。
何を言いたいかというと、声をつくるには空気が必要、その空
気になじみましょう、って話なんです。
自分自身が出す空気、吐く空気、それとどんどんなじんで関わ
りあって、その空気をコントロール、操れるように、空気とと
もにいられるようにという、そういう練習なんです。
でもその1番には、まずご自身の口から出た音というのをかな
らず聞いていただく。

あともうひとつは座禅を組んだりとか、ヨガなどの東洋医学を
やってる人はほんとに当たり前のようにいうんですが、呼吸法
ってのがあります。
呼吸をするときどうするのか?
吸うときの意識って、意外とクールになれないんです。
冷静になれない。
吸うときってけっこう身体が大きく動いてるんですよね。
だからちょっと意識が散漫になります。
ところが吐くとき、スースースー、、、これは意外とコントロ
ールできるんです。
呼吸においては「吐く」ということがすごく大切です。
これはまるで1本の糸がお口からずーっと流れているようにや
ります。長ーく長ーく引っ張ってゆきます。
それをやることで肺をたっぷり使う訓練にもなりますから、息
が長くなります。ロングトーンができるようになります。
特に吐く息のときに冷静になってタイミングとかいろんなもの
をとらまえるようにするには、まるでお口から一本の糸が出て
るかのように息を長々と出していきます。
で、これをどんどんやればやるほど肺活量が増えるんですよ。
それと同時に声もちょっと大きくなったりします。
これをひとつしっかりやるのがいい方法だったりします。

空気となじむってことですね。
やっぱり空気のコントロールができないと、歌って歌えません。

ほかにもいろいろな方法がありますが、さあ、みなさん、
ここで一緒に声をだしてみましょう。
あと40分くらいありますから、40分みんなでいろんなこと
をやることで、いまここで声を出した時と最期に声を出した時
と、どっちが声を出しやすかったかというのを感じてほしいと
思いますね。

それではみなさん立って、自分の出した声を覚えといてね。
「マーマーマーマーマーマーマーーー」です。
ハイ、ラクにどーぞ。せーの!

「マーマーマーマーマーマーマーーー」
ハイ、ちょっと上げましょう。
「マーマーマーマーマーマーマーーー」
ハイ、もうちょっと上げます。
「マーマーマーマーマーマーマーーー」
はい、けっこうです。
いま出した声はそんな感じでした。

いま息を出したんですけど、肺から空気でてきましたよね?
肺を動かすために必要な筋肉っていうのがあります。
どこらへんだと思いますか?
「横隔膜」
そうです!
横隔膜、とはいいますが膜ちゃいます。
筋肉ドームみたいにけっこう分厚い筋肉の塊です。
ちょうどこの横隔膜というのが、肺の裏側にあります。
こんなふうに、どーん!とお腹を外にせり出したら、横隔膜は
下に下がります。
横隔膜が下がると肺が広がります。
肺が広がると息がたっぷり入ります。
よく歌の先生が「背中のほうにまで息を回してね」なんて言い
ますが、それはこういう意味です。
それが横隔膜という筋肉の動かし方です。

また「肋間筋」というのがあります。
よく肋骨、肋骨といいますね。あばら骨。
あばら骨とあばら骨の間にも筋肉があります。
これを上手に引き延ばして息を吸うと、これ胸式呼吸になるん
ですけど、肋間筋を引き延ばしたり縮めたりすることでも息を
吸ったり吐いたりできます。
じゃあ、それをうまくやるにはどうしたらいいか、といったら
その筋肉をリラックスして使いましょう、ってことなんですね。

よく、歌が上手になるためには腕立て伏せをやるべきだとか、
腹筋をやって腹筋を強くした方がいい声が出るとか、そういう
ことをっしゃる先生方がいます。
それは嘘じゃないんです。
60,70、80となってきたら全身の筋肉が弱ります。
さすがに年取ってくると身体全体の動きが悪くなってくる。
そういうときにいい声をつくろうというと、これはほんとに腹
筋や腕立て伏せが役に立ちます。身体のいろんな筋肉に刺激を
与えてあげるのは役に立ちます。

でもまだそんなに年じゃない、まだ歌える筋肉を持っている我
々としては、伸びのある、リラックスできて伸びやかな筋肉の
動きが必要になってきます。