「パワーボイスってなんなんだ?」2.心が動くと身体も動く

さて、ではそれを歌に置き換えてみましょう。

『Moon River』って曲があります。
ムーンリバー、月の川。
月の川ったって川の中に月は落ちてないから、だぶん夜になったらすごくきれい
なんでしょうね。水面に月の光が映りこんで、それがとっても素敵だったので
きっと昔の誰かが『ムーンリバー』って呼ぶようになったのかもしれない。

 Moon River,
 Wider than a mile

1マイルより広いってんですよ。
1マイルは1.6キロキロですからね。
1.6キロより広いったらかなりでかい、もう湖みたいな川ですよ。
でも、そんななかで、なんか知らへんけどすごくきれいなお月さまが映ってる
川のところで、あなたのことを思ったりしながら、、、っていうとすごくムード
がでてくるわけですね。いい雰囲気になるわけです。
そんな何か、景色が素敵だなあ~
そんな景色見ながらあなたのことを思ってるとしあわせになるのよね、
ってことがあって、もうあまりにもそのときの気持ちがうれしくって素敵で楽しい
から、誰かに伝えたいな、誰かに聞いてほしいな、っていったときに、

 Moon River,
 Wider than a mile
 I’m crossin’ you in style
 Some day.

ってやると、なんか知らんけど、ふぅーん、、、なんて感じがするわけですよね?
でもそれがただ単に、月の川があってー、1マイルよりもひろくってー、
なんかあなたみたいにここ渡ったらいいのになー、ふん! OK! 
ってな感じで、Moon River! と無神経にやっちゃうと、
なんの感興も湧かなくなっちゃうんですよね。

だから、歌を素敵に歌うためにどうしたらいいの? といったら、
まず、歌を知ることなんですね。

 歌を知るってどういうこと?

歌詞の情景を、歌詞の意味を、理解する。
時代背景、その他もろもろ、いろんなことが必要です。

で、その次に、

それによって自分が感動したら、自分の心が動いたら、
絶対に人間の身体って動き出すんですね。
心が動いたら身体も動くんです。

そうしたときに、それを声に変えたいなと思ったら、それがパワーボイスになります。

でも、ここまでをはしょっちゃうと、これ(自分の感動)がないと、
全然パワーボイスってのが出てきません。

だからそんなふうにして、とにかく『伝わる何か』、『伝えたい何か』を声にして伝え
ていく、ってのがパワーボイスです。

で、また、歌の勉強するにしても、それから舞台の勉強をするにしても、何かお客さん
に伝えなあかへん、っていったときには、まず最初に自分の心が理解して、それを身体
が咀嚼して感じておかないと全然うまくいかないんです。

なぜかっていいますと、発声練習をするにしてもここがわかってないと不思議と喉って
詰まっちゃうんです。

たとえば舞台の上で、「なんや!おまえなんか。こんなところになんで顔だすねん!
向こういかんかい! 嫌いや!」って言おうとしても、ぜんぜん嫌いでもなんでもない
わけですねえ、ほんとは。たまたまお仕事で(役として)たまたまお目にかかかった初
共演の方かもしれないし。「嫌いや!」って言うたって、別にそんな嫌いでもなんでも
ない人にデカイ声だして、心底嫌いでもないのにデカい声だして毎日何回かそればっかり
やって、、、、、、
それこそ3回公演やったらえんやけど、ひと月続きの25回公演、朝もあったら50回
みたいなことになったら、もう最後は掠れきった声になってしまいます。

だから、別に初めて会った人で嫌いでもないんだけれどもどうしてそこまで嫌いになる
のかといったら、大概は好きなんですよね。
好きやったり、惚れてたり。ほんとはこっち向いてほしい。だのに、そうしてくれない
から嫌い! なんです。
・・・っていうことをぜんぶちゃんと自分の中に落とし込んで、ちゃんと「そやな」と
思ったときに「おまえなんかなあ、嫌いや!」っていうと、ちょっと「嫌い」が立って
きます。

だけどそれも本気でやりすぎると喉にくるので、ま、そこはやっぱり『形』とか『技』
とかあるんですけれどもね。

まあ、なんにしましてもその伝わる・伝える声が出ないと意味がない。
で、そこらへんのベースを身体の中に、心の中に落とし込まないと意味がないというこ
とになってきます。

それで、思いもしないようなことをすると喉が詰まるというわけなんですけれども、
じゃあ、喉があまり詰まらないテクニック、
それをいまから勉強していきます。

さあ、まず、みなさん、
お喉ここ持っていただけますか? はい。
それで、唾ごっくんしてください。

 ごっくん。

いま、お喉どう動きましたか?

お! なるほど。
みなさん、そうなられましたでしょうか。
ごっくん、とすると、お喉がきゅんと上がってくっと下がる。
ゴで上がってクンで下がるというような、、、感じですね。

これは、お喉の模型です。
これ大体4倍のサイズがあります。
ほんとはもっと小さいんですけど、これが喉頭、ね。
前に見えてますのが甲状軟骨ってやつです。
ここに輪状軟骨、ここらへんに器官、っていうのがありますけどね。
上から見ますとちょっと声帯の役目になる、こういう部分が見えてます。
こんな感じで動きます。
息吸うときには広がって、声出すときにはピって閉じます。

この、お喉。
ここにこんな感じで入っています。
それでここに器官があって、こんな感じで気管支になってきて、肺になって
こういうふうに、あります。

声帯はどこらへんにあるの? っていうと、大体このあたりにあります。
ちょうどここが『喉ぼとけ』なんて言われるところです。
で、ここの、両方の肺の裏側にあります、ちょうどこうもり傘の広がった感
じのようなドーム型になってますけど、ここにすごい筋肉の板というか、
ドームがあります。これが横隔膜といいます。
これが、息を吸ったり吐いたりするときにすごく大切な筋肉です。

さあ、それで、みあさん、もういちどお喉持っていただけますか?
それで一緒に音階をだしてみましょう。
マママママママ、ってやります。
そのときにお喉がどう動くか、しっかり感じとってください。
いきますよ。せーの!

 マーマーマーマーマーマーマー

もういっぺんいきます!

 マーマーマーマーマーマーマー

どうです?
どんな感じで動きました?

うん、そうですね。
これ喉の高さなんですね。
マーマーマーマーマーマーマーって、
喉ってこんな感じで上がったり下がったりするんです。
だからすごく高いところの声だすと「マー!」ってやると喉ひゅーん!って
上がります。

で、またこれをレガートにやると、ヒュイーン!って上がってってまた下が
ってくるんですね。
1個ずつやるとこんなふうに上がったり下がったりします。

・・・っていうふうに、お喉っていうのは上がったり下がったりする役目が
あります。
これがね、若いうちはぜんぜん気がつかないんです。
年取ってくると、ちょっともの食べたりなんかしただけでむせるいうことが
でてきたりします。

どうしてか?

ここの筋肉が弱まってくるんです。
この喉っていうのは、ものをごっくんするときに、ひゅん! と上がります。
どうして上がるの? っていうと、
ここに『喉頭蓋』っていうフタが付いてます。
なんでこんなフタが付いてるの? っていうと、このフタがポン!って閉じて
くれないと、上から食べたものがこの器官の中にぜんぶドーーッと入ってきて
ウェーッってむせちゃって、下手したら肺の中に食べもの入ったままほったら
かしときますと、誤嚥性肺炎って、肺炎になったりして。それが寝てる間に知
らん間にどんどんひどくなったりして、もう寝たきりの状態になってるお年寄
りなんかだったら、肺炎おこしたらどんどんひどくなってそれでお亡くなりに
なったりしてらっしゃる方も日本には少なくないです。

そんなふうにならないように、この声帯のところにポンって喉頭蓋ってフタが
付いてます。
その仕組みが、このフタがですね、全体がひょん!って上に上がるとピッって
フタができるようになってるんです。